膨大な品目数の在庫を保有する葬儀会社の多くは、現場の在庫管理に課題を抱えている。これを抜本的に解決すべく、三雅産業の「M.O.S(Mimasa Outsourcing Service)」を採用して「倉庫在庫ゼロ・棚卸ゼロ」を目指したのが、冠婚葬祭事業を展開するアルファクラブ武蔵野株式会社だ。導入したグループ企業のサイカンシステム株式会社では、三雅産業による既存在庫の買い取り・自社倉庫の管理運営委託により「倉庫在庫ゼロ・棚卸ゼロ」を実現。システム在庫数と実在庫数の一致(棚卸ロスの明確化)と、「現場の意識変革」にも役立っている。
厳しさを増す葬儀業界の競争環境。より筋肉質な経営が必要に
アルファクラブ武蔵野株式会社は埼玉県を中心に、主に冠婚葬祭事業を展開している。業界に先駆けて、故人の遺体を生前に近い姿に戻す遺体衛生保全「エンバーミング」を取り入れたことで知られ、近年では、スマートフォンやパソコンから故人の思い出を偲ぶことができる「メタバース(仮想空間)霊園 風の霊」や、故人の遺骨や遺灰をロケットで宇宙空間に打ち上げ、地球の周回軌道に乗せる「宇宙葬」など、1962年の創業以来、常に「奉仕の精神」で地域社会に寄り添い続け、時代のニーズに即した先進的なサービスを開発。現在では、埼玉県だけでなく、福島県、山形県、岩手県、宮城県、茨城県、栃木県、長野県、岐阜県、千葉県、静岡県、島根県と幅広いエリアでトータルライフサービスを提供する、一大企業グループに成長している。
ただ、柱の一つである葬儀事業をめぐる経営環境は、大きな転換期を迎えている。
アルファクラブ武蔵野 財務経理部 購買課次長の藤井正巳氏は「日本の葬儀業界では、高齢化でお亡くなりになる方の数がピークを迎える2040年頃までは、葬儀の増加が見込まれています。一方で、価値観の変化とコロナショックにより、家族や知り合いの参列者が中心の、より小規模で簡素な葬儀が好まれる傾向が進み、葬儀1件当たりの単価は落ち込んでいます。成長産業との認識から競合他社の業界参入も多く、価格競争の激化も懸念されます」と、説明してくれる。
「さらに、世界的な原材料の需給ひっ迫、急激な為替変動、エネルギーコストの高止まり、人手不足による賃金上昇などを背景に、仕入原価の高騰が続いています。そこで当グループでは、厳しい競争環境下で持続的経営を実現するための経営判断として、喪具在庫・運用コストの削減による効率化を図ることになり、私が推進責任者となって、2022年7月に『棚卸ゼロ(倉庫在庫ゼロ)』を目指すプロジェクトがスタートしました」
既存在庫の全量買い取りで「倉庫在庫ゼロ」を実現
同グループが、仕入コスト削減の具体的な施策として、「倉庫在庫ゼロ」に照準を合わせたのは、葬儀特有の事情がある。
「葬儀は緊急性が高く、自社倉庫に一定量の喪具など必要な在庫がなければ、いざという時に対応できません。この在庫管理が、これまで当グループでは非常に手間となっていました。一口に葬儀といえども、宗教や宗派によって必要な品は違いますし、故人様やご家族様、葬儀を執り行う宗教者によっても求めるものは千差万別です。葬儀ごとに用意すべき品が多種多様であるため、倉庫では現場の職員が個人の裁量で必要な品を持ち出し、お客様の元へお届けすることが慣習的に行われてきたのです。しかも品目が膨大なだけに、これらの商品定義が曖昧になりがちだった面もありました。各ベンダーとの受発注についてもデジタル化を進めてはいたものの、納品時の倉庫作業で取引先との旧来型の慣習を改めきれない点などもあり、システム在庫と実在庫の不一致が常態化していました」
アルファクラブ武蔵野では、受発注システムを刷新して効率化を図るなど、倉庫在庫ゼロに向けた試行錯誤を重ねていた折、“運命の出会い”が訪れる。
アルファクラブ武蔵野の社長室所属の職員と三雅産業の営業担当が同じ訪問先で接する機会があり、その縁で藤井氏が三雅産業から、製造業での調達・在庫管理・ピッキング・出荷(キッティング)に実績のある「M.O.S」の説明を受けたのだ。渡りに船のようなサービス内容に感嘆し、手始めにグループ企業のサイカンシステム株式会社で導入することが決まった。決め手は何だったのか。
「何より、自社在庫を完全にゼロにできるという点が魅力でした。これがグループ全体で可能になれば、在庫管理における工数を大幅に削減できると考えました」
とはいえ、在庫管理や調達業務のアウトソーシングサービスを提供する企業はごまんとある。しかも、M.O.Sはこれまでは専ら製造業向けにサービス展開してきており、冠婚・葬祭業界向けは、今回が初めての試みだ。なぜ、M.O.Sに託したのか。藤井氏はこう語る。
「一番の決め手は、在庫を全て買い取ってくれることで、当社の倉庫在庫がゼロになる点を評価しました。B/S(バランスシート)上も、とても身軽になりますよね。これに加えて他社との違いは、取引の明朗さです。在庫を買い取って保有し、M.O.S同様に必要分を販売・提供するサービスは他にもありますが、商品自体に数%を上乗せした金額で販売・提供するのが一般的です。一方、M.O.Sの場合は、いったん在庫を買い取る点は同じですが、その後は使用分の金額のみを支払うスタイルで、その単価は自社調達の場合と変わりません。もちろん、入出荷作業や管理業務の委託手数料はかかりますが、良心的でシンプルな仕組みで信用できます」
“混沌”とした倉庫に、魔法がかかった——整然へと劇的変化
三雅産業への委託範囲は、喪具等の調達・倉庫運用(在庫管理)・出荷(キッティング)・月次のロス分析で、M.O.S運用の物流基点はサイカンシステム保有の埼玉県内にある2つの自社内の倉庫だ。これは三雅産業にとっても画期的な試みとなる。調達・在庫管理・キッティングまでを担う点は従来のM.O.Sと同じだが、製造業以外でサービスを運用するのは初。また、自社倉庫ではなく、「顧客の倉庫」で運用する最初のケースでもある。
M.O.Sの運用を始める準備として、必要だったのが2つの倉庫内の整理だ。現場は長年の運用により、数百種類の喪具類がランダムに置かれ、不要品も混在する“混沌”とした状態だった。三雅産業の倉庫管理のエキスパートが、「必要な品=在庫として買い取るべき品」を選別し、不要品は廃棄処分した。「ベンダーからの商品受け入れ→在庫管理→キッティング→出荷(サイカンシステム営業担当者の現場持ち込み)」までを効率的に実施できるよう、棚レイアウトと商品の定義、ラベリングを再設定し、必要な品を見つけやすく、各品の在庫を見える化した。
これらと並行して、M.O.Sのシステムとサイカンシステムの受発注システムを連携させ、商品コードの再設定を進めた。藤井氏は「倉庫内に新たなスペースが生まれ、必要な品だけが整然と並べられた倉庫の姿を目の当たりにしたスタッフから、『魔法がかかった』との驚きの声が上がっていました」と話す。こうした準備が整った2024年7月、運用を開始した。
導入成果は、もちろんサイカンシステムの「倉庫在庫ゼロ」が達成されたことだ。加えて、藤井氏が成果として挙げるのが「ロスの明確化」だ。「グループ全体で商品が定義され、受発注システムが整ったことが前提の話ですが、実際の注文が5個にもかかわらず、三雅産業様管理下の倉庫棚卸では6個がなくなっていた場合には、この差分の1個について月末に別途注文を入れています。この別途注文分は全て『ロス判定』となるわけです」
藤井氏は、副次的な効果として「外注化による現場の意識改革」にも言及する。
「倉庫では、『商品受け入れ時の検品→M.O.Sシステムへの入力』『M.O.Sシステムからの出荷指示書に従った準備・出荷』『誰が・いつ・何を・何個持ち出したかの記載』といった新たなオペレーションが導入されました。最初は戸惑いを見せる職員もいましたが、三雅産業様が根気強く説得してくれたおかげで、一人ひとりに“在庫=資産”という意識が高まり、『必要な品を、必要な時に、必要なだけ発注・出荷する』というオペレーションの定着の道筋がつきました」
アルファクラブ武蔵野では、受発注システムとの連携状況などの検証も踏まえて、グループ各社へと横展開を図り、さらなる成長ステージを見据える。アルファクラブ武蔵野と三雅産業のパートナーシップは、持続可能な葬儀業界の新たな方向性を示していると言えそうだ。
<M.O.S 担当者から>
営業先での思いがけぬ出会いがきっかけとなり、M.O.S導入をご決定いただきました。人と人との“偶然”のつながりを、ビジネスの広がりという“必然”に変えられたのは、営業担当として大きな喜びです。また当社にとっても、サービス業の現場で、しかもお客様の倉庫におけるM.O.Sの運用は初めての挑戦となります。アルファクラブ武蔵野様が目指す経営・業務効率化への強い意志、そして「ロスゼロ」の実現への道は終わりのないチャレンジです。工場では、たった一本のネジが不足しても製造が止まることがあります。このような厳しい環境で培った製造業のノウハウを存分に生かし、今後もアルファクラブ武蔵野様のご期待にお応えしてまいります。
IT推進課統括マネージャー
永山祐也
- ※:掲載情報(企業情報・部門名・お役職名などを含む)は、初版制作時のものです。
サイカンシステム株式会社
https://saikan-system.co.jp/
本社所在地:
〒330-0855
埼玉県さいたま市大宮区上小町535
設立:1986年10月
資本金:1億円
事業概要:
サイカンシステム株式会社(さいたま市)は、埼玉県内で冠婚葬祭・互助会を中心に総合結婚式場・葬斎センター・多目的ホールの運営・教育事業などを手がけるアルファクラブ武蔵野のグループ企業。葬儀事業は「さがみ典礼」のブランド名で知られる。