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第2回 生産性を上げる渾身のメソッド「BASE6ベーシックス」とは?
貫く。原理原則。 ZERO1多田夏代の、工場収益カイゼン革命 多田夏代(ZERO1)  
構成)日経BPコンサルティング

日本のものづくりの力が落ちている―。もう何年もいわれている言葉です。しかし具体的にどんな力が落ちているのか、それは自社にも当てはまることなのか、きちんと分析して理解している企業は多くないようです。足元のぬかるみに気をとられて回り道をしないように、ときには俯瞰的に状況を把握しなければなりません。

多くのメーカーの体質改善を支援している経営コンサルタントの多田夏代氏が、製造業の現状と、そこで勝ち残っていくための課題抽出の仕方、その課題の解決法を、3回に分けて指南します。

すぐに利益は出せる。でも、それだけでいいの?

私たち経営コンサルタントが現場に行って、真っ先に経営者からリクエストされること。それが、「すぐに利益を出してほしい」ということです。あるいは、製造コストを下げてほしい、生産性を上げてほしい、在庫を削減してほしい、製造期間を縮めてほしい……。どれも経営に直結する課題ばかりです。

もちろん、経営コンサルタントが腕まくりをして、改善の原理原則に従ってスピード感をもって取り組めば、一時的にリクエストに応えることは可能です。しかし、その効果を長く継続させるには、実は現場の社員のモチベーションや維持管理力という、製造現場を下支えする「現場の底力」が必要なのです。

私は、前者のような経営直結型の目標を達成する力を「課題解決力」、後者のような効果を長続きさせる土台となる力を「製造基盤力」と呼んでいます。工場を利益の出る体質に改善するためには、この2つの力が不可欠です。

例えば、品質向上に成功して利益率が上がったけれど、ある社員が辞めた途端に技術がなくなってしまった。工程を短縮できたけれど、機械がすぐに故障してラインが止まってしまう……。穴の開いたバケツに水を溜められないように、課題解決力によって経営者の望む数値が出たとしても、底(基盤)となる製造基盤力が十分でなければ、ちょっとしたイレギュラーに耐えられず、パフォーマンスの平均は低いまま。

反対に製造基盤力が強固であれば、管理力や作業者のレベルが高いということ。揺らぎや変化にもすぐに対応できるし、そもそも変化を事前に察知して手を打つことができるので、大きな影響を受けずに済む。結果、パフォーマンスは、高い位置で安定するというわけです。

製造基盤力を測るKPI

とはいえ、残念なことに、多くの企業がこの製造基盤力の強化に注力できていません。「製造基盤」という言葉自体は、経済産業省が毎年発行する『ものづくり白書』で何度も登場するキーワードのため、製造業の人は耳慣れているはずです。それにもかかわらず、具体的な解釈は、人それぞれなのが現状でしょう。

ひとつの理由に、「製造基盤」が数値化、見える化されていない点が挙げられます。具体的な指標が存在しなかったため、「強化している、強化できている」と思い込んでしまっている企業が少なくありません。また、「強化している」と考える企業の中にも、我々コンサルタントからみると明らかに差がある場合があります。

そこで我々は、製造基盤力を測る指針をつくるため、製造業者の方々の声を元に、まずは製造基盤を構成する要素を整理しました(図2)。

「人は理想の職場では最大限の能力を発揮し、その能力が強固な基盤を構成する」と考え、理想の職場について多くの人の意見を集めたもので、主に以下の3点に集約しています。

さらに、この3点を具体的に測るための指標を、6つにまとめました。これを「BASE6ベーシックス」と命名しました。

BASE6をもとに検証

多くの企業を見てきた経験をもとに生み出した「BASE6」では、6指標それぞれに具体的な評価項目を設定しています。例えば「安全度」では、「これができていたら安全だ」という項目が約30個あり、重要度に応じて点数を配分。該当するものをチェックし、100点ならば作業環境の安全基盤は満点、十分だというわけです。このように、基盤を構成する6つのすべての指標でチェックし、600点満点だと製造基盤力が100%ということになります。

この6指標を評価・強化するための各テキストを整備し、コンサルティング先の企業の社員研修で、「製造基盤数値化実習」を実施することが多くあります。基盤力を上げるには、どのようなことをしなければいけないのか、自分たちに欠けていることは何か、現状や課題を理解できるだけでなく、話し合う中で、力を合わせて職場をよくしていこうという意識が醸成されます。

図4に、指標1「安全度」の評価項目の一例と、数値化の考え方を表しています。評価項目は、徹底して3現主義に即しています。現場で、現物を見て、現象をとらえて評価する内容のため、ぜひ部門ごとに、あるいは管理職同士で集まって6つの項目を評価し、自社の現実を見つめて、実力の度合いを知ってもらいたいと思います。

なお「安全度」であれば、厚生労働省から、産業別の安全に関する度数率や強度率が算出されているので、客観的な状況把握の助けになります。また、それぞれの指標について、「うちの会社はどうなのだろう」と、一般統計データと比較して話し合うことで、いろいろな気付きを得られるはず。数値を相対化するためにも、一般的なデータを知ることも大切なのです。改善ポイントが見つかったら、優先順位をつけて業務計画の中に入れ、できることから強化していきます。

生産性1.6倍のコミットへ

製造基盤力は、「基盤」であるがゆえに、瞬時に最大化することはできません。私たちがコンサルティング訪問する企業では、経営直結型課題への取り組みに並行して、半年ごとに評価項目に対する採点と改善を繰り返す活動をしていただきます。冒頭でも申し上げた通り、短期と中長期の改善活動の両輪をまわすことで、根本的な体質改善が可能になるのです。

例えば、ある車体架装企業の経営者は、生産台数が1カ月あたり3台で、人員数に対する生産台数の少なさに悩んでいました。そこでBASE6を点数化してみると、600点中119点という結果に。特に5S活動や作業の標準化などが整備されておらず、各人による職人的な作業に任されていました。また、生産計画が見える化されておらず、生産計画の立案や指示の手法にも、改善すべき点が見られました。

職場の整理整頓ができておらず、かつ作業者による自己判断とペースで作業をするため、生産性が低いのは当たり前です。逆に言えば、そこを改善して計画の見える化をし、指示を的確に出すことができれば、生産性が上ることが期待できる。そう考え、改善の原理原則である作業分析の結果から「生産性を1.6倍にする」と約束し、生産計画の作り方改善はコンサルタントと生産管理担当者を中心に進め、生産現場には、BASE6の改善に取り組んでもらいました。

6カ月間、集中して取り組み、その結果、BASE6が119点から291点に上がり、1カ月に5台を生産できるまでになりました。生産管理板等の導入はもちろんのこと、作業者一人ひとりが知恵を出して助け合うようになったり、各作業を時間内に終了させるという目標の設定、遅れの生じた工程を作業者同士でカバーできるようになったりしたことの成果だと考えています。

梱包作業の短縮と、出荷までの納期短縮という明確な課題を抱えていた、物流センターのケースでは、まずは製造基盤力の強化に取り組んでいただきました。作業者それぞれが標準時間を意識して仕事を工夫し、互いに技術を教え合うという意識が醸成された結果、約4年間で出荷までの納期が半減し、物量も増加、新たな人材を採用してビジネスの拡大にもつながりました。

経営者は、とかく即応性のある課題解決力ばかりを求めがちです。しかし、明確で達成可能な目標を設定し、製造基盤力を上げることこそが、企業が確実に成長する道なのです。

2018年3月15日

  • :掲載情報(企業情報・部門名・お役職名などを含む)は、初版制作時のものです。

多田 夏代(ただ なつよ)

株式会社ZERO1 代表取締役

防衛省で防衛装備品(電気通信機器・特殊車両・航空機・武器弾火薬庫等)の原価積算を10年間担当。その後、防衛省での経験を活かして、製造系コンサルティング会社にて、購買コストダウン、原価管理・製造の機能改善を得意とする実践型の数値効果の創出にこだわる工場コンサルタントとして、12年間勤務。多くの企業を支援してきた。訪問工場数は防衛省時代を含め、現在まで約150工場以上を数え、さまざまな業種業態での工場収益を改善し続けている